なめらかな日々

水のように生きたい

東京再訪- 8/31, 9/1、横浜と鎌倉散策

2019/8/31 ヨコハマ

 厚木でのアルバイトを終えて夕方、横浜駅でゆうまさんと待ち合わせ。会うのは二回目だから不安になることはないと楽観視していたが、それに反して強い緊張が走る。うつむいていると前方からやってきて、目の前で止まった人影。Tシャツとパンツ、スニーカー。ゆうまさんだ。お久しぶりです、と口にして、目的の地へ向かうことにした。
 ゆうまさんが大桟橋や山下公園が良いよと言うので、まずは大桟橋へと最寄り駅で降りる。私はアルバイトの関係でスーツにキャリーケースまで引いて歩いていた。ゆうまさんに「ねんちゃん、人に見られてる」と言われて、自分の格好や持ち物が何か変に思えてきて群衆に入るのが不安になってしまったときはあったが、大桟橋からの横浜の海は穏やかで、その不安も少し洗い流してくれた。

f:id:nrrhn:20190905212716j:image

 なにか音楽が聞こえてきて、みれば赤レンガ倉庫で「Local Green Festival」という音楽フェスをやっているらしかった。どうやら大桟橋から海を眺めつつ、チケットは買わずに音楽を聴こうという輩もいるようで、私達もその一員と化した。ラインナップもなかなか好きなアーティストが揃っていて、歌っている人物にもすぐに思い当たった。そのときはiriが「ナイトグルーヴ」を歌っていたと思う。

ナイトグルーヴ

ナイトグルーヴ

  • iri
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 ネオンの反射する海を眺め、ビルの谷間に輝く夕日をうつした写真を撮って話をしていると出演者が交代して、今度はSIRUPが歌い始めた。太陽が沈み、大きなデジタル時計が刻印された観覧車も光が灯って、頭のなかにはセカオワのYOKOHAMA bluesが流れていた。ゆるやかな風が快かった。

YOKOHAMA blues

YOKOHAMA blues

  • provided courtesy of iTunes 

 山下公園について、ゆうまさんがなにか買ってくれるというので、さすがパパー、と冗談を飛ばして礼を言った。アイスを買ってもらう。ゆうまさんはツイキャスを開いて誰かの配信を見ていた。山下公園内には植物園めいたものがあって、アリスが迷い込みそうだねと話し合った。最近観た「アダムス・ファミリー1」の話をしつつ、(あまり伝わらないと思うが)「アリス・イン・ワンダーランド」に出てくるプロポーズ場所のような庭園を歩く。壺を左肩に抱えた謎の石像が中央に鎮座する噴水の前でゆうまさんはツイキャスの配信を始め、数人閲覧しているようだった。

 当てどない方向を見てぼーっとしていると、若者の集団が花火をしてはしゃいでいた。いたずらに放たれる火花に夏の終わりを感じた。同じような男女のグループは芝生のうえにあちこち点々としている。皆馬鹿騒ぎすることはなく、かと言って静かなわけでもなくて一定の体温があった。一つのグループの近くへ警官がやってきて、冷たい顔をして話をしている。集団のテンションは萎み、火花は消灯される。それもまた、彼らにとっては夏の思い出の欠片になることだろう。

 山下公園を出た。夕飯を取るために横浜から桜木町駅までの長い長い通路を歩く。大桟橋から遠目で見た観覧車が間近に迫ってきて、やっと今横浜にいることを実感できたような感じがした。

 電車を使ってゆうまさんが行きつけの洋菓子店へ。バニラアイスが載せられた美味なフレンチトーストとブラッドオレンジジュースを頂き、明日の予定について話し合った。明後日に私の希望によって青梅に行くので、明日はどこかゆうまさんの行きたいところに行きますよと言って、鎌倉に行くことが決定した。
 伊勢佐木町の安価な宿泊処へチェックインして、電車で受け取っていたゆうまさんからの贈り物をひらく。青緑色のAfternoon Teaの袋の中には「S」という私の名前のイニシャルが刻印された(ねん、のNじゃないことになんとなく笑ってしまった)水色のハンカチと、カシワイの『107号室通信』が封入されていた。大切に使い、読もうと思う。『岩田宏詩集』を読みながらボルドーのマニキュアを丁寧に塗り乾かす作業をしていたがなかなか寝付けなくて、最後に時計を見たのはAM4:00のことだった。

 

2019/9/1 カマクラ

 正午過ぎ、鎌倉駅にて待ち合わせをする。
改札に来るゆうまさんはTシャツ、パンツ、スニーカー。ゆうまさんは背が高いし、なで肩であるし、血管がすごいし、いろいろ特徴のある体格なので近づいてきたらすぐわかる。私は黒地に細かい模様がついたサテン地のワンピース、黒のぺたんこ靴。長谷寺に行くことになったが、せっかくだから歩こうと提案して30分ほど目的地まで散歩することになった。
 いかにも野良猫が現れそうな細道を通ったり、アンティーク家具屋を見物したり、目の前に通過していく江ノ電を見たり、2年前に行った修学旅行とは全く違った色を見せる鎌倉が楽しかった。あのころ、自由時間の際に行った小町通りの煎餅屋に友人と興奮し、うっかり集合時間に遅れて恥ずかしかったことを思い出してひとり顔を熱くさせた。

 反対にゆうまさんは歩くごとに疲れた様子で、しきりと店で休憩したがった。彼にとっては江ノ電のほうが負担が少なかったかなとちょっと思ったが、道中の店に立ち寄って涼むのもまた楽しいことだ。

f:id:nrrhn:20190905220951j:plain

 動物図鑑や建築関連の本、はたまた自己啓発などジャンルのまとまっていない本棚があるカフェで、辛味の効いたジンジャーエールで体内を潤した。
 歩いているとゆうまさんがツイキャスを始め出してちょっとしたトラブルもあったが、無事に着いた。長谷寺では大きな仏像を見上げたり、弁天洞という、かがまないと進めないような小さく湿った洞窟の中に入って、掌サイズながらおびただしい数の人形を見たり、静かな由比ヶ浜をながめたりと興味深いスポットが多数あった。最も注目すべきところは流麗な池であろう。気持ち良さそうにそよそよ泳ぐ金魚や池に浮かび、写真を撮るとみずみずしい空の蒼さが透き通った水面に反射していて、綺麗、と声が漏れた。小鉢には白いメダカが数匹泳いでいて、家で飼っているメダカたちを思い出して元気にやっているか心配になった。

f:id:nrrhn:20190905221026j:plain

 長谷寺を出た後はベンチで休み、この間にゆうまさんへ贈り物をした。携帯できるうさぎの小さなぬいぐるみである。色はグレー。ゆうまさんは動物好きだし、可愛くてふわふわしたものが好きそうである、という予見からだった。売り場にはいろんな種類の動物がいたが、彼は飼っているハムスターの確たる死の到来を恐れているので、可愛かったハムスターのぬいぐるみは避けてうさぎを選定した。

 ゆうまさんには、これ欲しかったやつだ、レインボーのやつもあるよね、と言って喜んでもらえたようだった。

 

 満員のバスで鎌倉駅まで向かって、数年前よく行っていたという寿司屋で食事。ゆうまさんは慣れた様子で私の注文まで頼んでくれた。鮭系ばかり頼んだ気がする。ゆうまさんはえんがわや、サーモン・炙りサーモン・とろサーモンが並んだ皿、茶碗蒸しなど色々頼んでいた。PM17:00ごろである。

 このあとどうするかと言って、彼が前に探して見つけられなかった澁澤龍彦邸を見に行ってみようということになった。私はたくさん散歩したかったし、全くゆかりはないが興味本位で行ってみたいなと思った。住宅街の奥へ奥へと突き進んでいく。鎌倉のご近所さん方がこんにちはと挨拶しあっていた。途中、またゆうまさんはツイキャスを始めていて、これは完全に中毒だなと思った。洞窟のようなところを通って奥宮に入る。この洞窟の清水でお金をゆすぐと財が増えるらしい。私は特にやる気が起こらず、うつろにゆうまさんがお金を洗うさまを見ていた。そこからまた澁澤邸まで歩いたのだけれど、それがまた極めて長い道のりだった。私はある程度の疲れは持ちながらも歩くのが楽しくて元気になっていったが、ゆうまさんは辛そうにしていた。歩くこと1時間、すっかり日が沈んだなか、やっと澁澤邸前まで到着。といっても真っ暗なのでよくわからない。奥まった林の中にあって、なにか出てきそうで怖かった。私たちが家の前で話し合っていると家に住まわれる方がゆっくりとやってきて、不審者然とした私たちに構うことなく家に入っていった。画像検索に表示されている澁澤邸と家の形や色は似ているけれど、これがそうだという実感は生まれなかった。ともあれ、ゆうまさんが嬉しそうだったのでよかったなと思う。

 澁澤邸を引き上げて、ゆうまさんの最寄駅にあるファミレスで軽食。ゆうまさんは先ほど贈ったうさぎをテーブルのそばに置いて、じーっと見つめていた。「ねんちゃんが近所に住んでいたらいいのに」と言うゆうまさんに対して、私は「仕方ないですよ」と答えつつ、もし私が東京の大学に通っていたらと夢想してみる。

 東京で行動していて考えていたが、都会的な風土はさほど自分の気質に合っていないこともないのだけれど、問題は人かな、と思った。いろんな来し方をもつ人にあふれていて、誰に安心すればいいのか、誰を警戒すればいいのか、それがとんと分からない。私の住む場所の雰囲気に似た、ほどほどに寂れた街や牧歌的な風景はわりと探せばどこにでもあるけれど、どこにいてもすべて他人の吐息で曇っているような感じがする。そこまで考え、やはり東京で暮らしていくことなど心細くて自分はできないのかもしれないと思い直した。

 

 お別れしたのはPM20:00、そこから50分ほどかけて浅草のホテルへ向かい、明日の準備をゆっくりと行って就寝した。2日、3日も日記を書こうと思う。